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ペンギンビレッジとエコシステム(生態系)の原点

ペンギンビレッジ代表の雑誌インタビュー
                  
1992年『水草カタログ』(成美堂出版)



 

 AQUARIUM IS FUN
現代生活をうるおす水の世界              


尾崎 初さん

水草との快い出会い

 「水を見ていると気持ちがおちつくものですから、20代の頃に、釣ってきた鯉や鮒の水槽の中に水草を入れたいと思うようになったのです。ところが当初は種類も少なかったですし、文献などもほとんど無い状況だったので、見よう見まねで始めました」

 何十種類かの水草を育てられるようになって、尾崎さんは専門店を始めるようになった。「ペンギン村」はオープンの時から、熱帯魚というよりは水草を主体とした店。現在と同じ場所で、10年前にスタートした。そして今年3月に、リニューアル・オープンでPENGUIN VILLAGEとして新たに登場である。

 以前は40坪ほどの店で、商売をしている間は水槽をゆっくり見ている訳にはいかないけれども、店を閉めてから、水槽の前に椅子を引っ張り出して
缶ビールでも飲みながら、30分でも1時間でも見ているということがあった。そういう時間をお客様にも提供できるようにとの発想に基づいている。

 水草の栽培方法だけでなく、レイアウトにも力を注いでき
た。60cmでも90cmの水槽でも、スタンダードな方法だと、 


尾崎 初さん。現在は自宅に水槽もおいていない。店内の大きな水槽は自らレイアウトする予定で触れないように指示を出したが、気分を改めてじっくり作業する時間が取れない。鮒釣りもしばらくできない状況だそうだ。

10〜15種類くらいの水草を使ってレイアウトする。同じ15種類の水草でも人によってできあがった水槽は違う。これはテーマの持ち方とか、それぞれの考え方によって、ひとつの表現の領域にたどり着くんじゃないかと尾崎さんは考えた。人生の向かい方に至るまで、すべての自己表現が水槽に現れてくる。立体的な絵であり、しかも生きている点では新しい表現の形態として考えられるのではないかというわけだ。


アクア・インテリアの効用

 
素材を購入して自分でレイアウトをする人、店からセッティングに出張してもらい、水まで回してもらった後に自分で魚や水草をいれる人、そして水草のレイアウトから魚の搬入、それに1ヵ月間のメンテナンスまでお任せの人。このような3パターンの方法がある。水槽のセットから水草のレイアウトまでの行程は、地球の天地創造にも似ていて、不安定な時期がしばらく続く。簡単にいうと、セットして最初の3週間ぐらいは微生物段階の進化が続き、それから植物段階の住み分けが始まる。ほぼ2ヵ月経てば、水槽の中の生態系ができあがるというプロセスである。

 「それ以降は安定した進化ですから、メンテナンスが容易になります。最初の不安定な時期にどうしても失敗が多いというわけで、その時期だけ出張してメンテナンスを引き受けるといったこともしているんです。つまり水槽の生態系の基礎を作る作業です」

 店内で完成した水槽を見ると、お客さんはどこから手をつけていいのか見当もつかない。だから、水槽を見てきれいだと思っても自分の家でできるかということに不安をもつ人が多いそうだ。水の世界は小鳥や犬、猫といった空気を吸う生き物と違って、異質なところがあるので戸惑ってしまう。で、その不安な部分をお客様に代わって作り上げる。

 その他に小さい水槽セットならば、そのまま持ち帰れるようにレイアウトされている。できあがったばかりの水槽は微生物がうまく働いていない状態で、水質も安定していないので白濁してしまう。そこで水槽が安定した状態で展示してあり、すぐに持ち帰れるということは初心者には便利だろう。でも作る部分に楽しみがあり、メンテナンスが楽しいことを、やがて知るに違いない。


「Penguin Village」の店内。売り場は180坪に拡大したが、水槽の本数は200本と40坪店舗の頃と変わりなく、見るスペースを贅沢に取ってあり、水槽の前にソファーも設けてある。そこが自慢で、土、日は見学者が多い。2階に喫茶部も設けている。





水草のパワーをじっくり眺める

 尾崎さんが水槽をレイアウトする楽しみはどこにあるのだろうか。
 「ひとつ強く思うことは、図面を作ってから実際にレイアウトしていくんですが、その段階で植えてからの生長の様子も考える。これは早く伸びてしまうから、1ヵ月もすると邪魔になるなあとか。ところが、一度できあがってしまった水槽というのは、独立した宇宙のようなもので、制作した人の予定とか意図とかを乗り越えていくんです。こちらにも予定があるからトリミングしたりして手を加えますが植物の住み分けや適応、生存競争といったことが起こり、植物の生命力で我々の予想を越えていってしまう。それがレイアウトを維持していく上でのおもしろみでもあると思います」

 これまで熱帯魚の美しさとか、珍しさを追及する傾向にあった。水草をレイアウトした水槽というのは、水草を育成して、その水槽の中にひとつの生態系ができあがる。魚だけを楽しむのではなく、水草でけでもなく、環境そのものを味わうということだ。尾崎さんは説明する。

 「水槽は独立した世界で、魚と水草、そして微生物が協力しあって生きる調和の世界だと思います。平和で調和しているといっても、生存競争も働きます。小さなエビを水槽の掃除屋として入れますけれど、たいてい20匹単位で入れても15〜16匹は食べられてしまいます。数匹しか残らないというのが普通です。残ったエビは学習効果を持ち、食べられなくなる。それらのエビは繁殖力もある。このように見ているといろいろなことがわかってきます。調和するといっても100パーセント平和なわけではなくて、生き物の生存競争とか、学習とかがある。そういったことを知ると、飾りものとは違った美しさがあると思えてくるわけです」

 自然の環境の中では、そこまで関わることはなかなかできないけれど、水槽では身近にとらえられる。
 さらに、いつのまにか、魚を見ているのでも水槽を見ているのでもなく、環境、いわば水をみるような感じになる。水はクリアなので最初は目に入らないかもしれないが、結局はクリアな水に象徴されるような環境を見ているに他ならない。通常、水というのは飲んだり、煮たり、洗ったりするものであって、なんらかの利便性があるものなのに、アクアリウムの水というのは何の利便性もない。現代生活の中で何の意味も持たない水と出会うということが、どんなに重要な意味をもつことか。しがらみの多い世の中で利害打算で生きていることに疲れた現代人。何の意味もない水は心のゆとりであり、浄化される時間を持つことなのである。アクアリウムというのは、水を見る時間を作るんだというのが尾崎さんの持論だ。

 レイアウトする過程においても、この水草をどのように植えようか、どこに植えようか、どういう形に植えて1ヵ月後どうなるかと思いめぐらすといった楽しみがある。結局のところは、できあがった水槽をうっとりして見入るという時間の貴重さがキーポイント。アクアリウムを前にして、ゆったりと自分を忘れるような時間が持てる。


 


1m四方の水槽の中心部にアフリカ産のシダをオブジェ感覚で。最初はディスカスを泳がするもりだったのが、グッピーを入れたら大きい水槽にグッピーがおもしろいと好評。




初心者の人への具体的アドバイス

 まず、アクア・インテリアと呼ばれる水槽は、従来の熱帯魚を飼う水槽とはちょっと違う。実際に熱帯魚を飼ったことがあるという人の方が、失敗をしやすい。飼ったことがある方でも、一度白紙に戻して店に相談したほうがいい。あまり先入観を持ってやると失敗するということだ。そして水草にあった器材を使う。

 「本当に初めて水槽をセットする人のほうが、うまくいくんですよ。それと水草をベースとして水槽を作っていきますから、主役となる水草を育てるシステムを取り入れること。熱帯魚用の器具の中には、水草に合わない器具もあります」
 もうひとつ、水草の量が問題。原則として、下の砂が見えないくらいの量の水草を植える。少しずつ様子を見ながら植えるというのは要注意。水草というのはある程度の量が集まって、初めてひとつの浄化作用をなすので、量が少ないと逆に水を汚す原因となるそうだ。安い水草でいいから、砂が見えない程度を目安として、いっぺんに植え込まなければいけない。少しずつやると、たいていうまくいかない。水草の最大の敵である苔や藻が出てくると、水槽はメチャクチャになってしまう。出てきた苔を取るのは大変だが、出さないようにするのは比較的簡単だ。それには最初に水草の量を入れることが肝心である。水草と苔とはライバル関係にあるので、水草がよく繁れば苔は抑えられる。苔が多くなると、水草はダメになる。水草の力を発揮させるためには最低限の量があることを覚えていて欲しい。1本ずつの水草は弱いものでも、ある程度の量が集まると自分達の生存関係を作る。そして全体の水質を植物自身がコントロールしていく。魚はそれぞれが好きな種類をゆっくりと選べばいい。水草でしっかりとした環境ができてしまえば、魚を飼うのはそう難しいことではない。このように尾崎さんはアドバイスする。

 メンテナンスも原則は2週間に1回、20〜30パーセントの水換えだが、生態系ができあがった水槽は1ヵ月間メンテナンスをさぼっても大丈夫。生き物の世界というのは、そういう融通性が効く。基礎ができていないとそうもいかないが、アクア・インテリアは一度セットしてしまうと8年間は水槽を洗う必要がない。そうしたところも従来のアクアリウムとは違う。地球が誕生して40億年、少しずつ進化して安定した状態になり植物も進化して現在の生態系を作っている。これと同じことが水槽の中で再現できる。それぞれが違った段階なので、時間をかけて長く維持すれば、より一層おもしろさを楽しめる。最初の2ヵ月を乗り越えれば、トラブルはまず無いと尾崎さんは力説する。

 



水槽の大きさは、ひょっとしたら手に入るかもしれないという夢を与えることにも留意。しかし深いとメンテナンスが大変で、植え替えも困難だ。そこで大型水槽は深さ60cmで設計したが、模型を作ってみると余りにも細長すぎるので75cmないと恰好がつかないということもあった。

 

 



個人的に好きな魚はイメージも膨らむ

 アフリカ産のレッドアイカラシン、南米産ではヘッドスタンダーのような小型の肉食魚。それらの背景ははっきりとイメージしていて、魚だけで思い浮かぶことはない。
 「他にも幾つもおるんですけど、なかなか珍しい物は入ってきません。僕が仕入れにいくと、何でそんな変わった種類を買ってくるんだといわれる。僕の頭の中に、これをこう使うとおもしろい水槽になるというイメージがあるんだけれども、説明するのは難しい」

 アクア・インテリアというのは魚や水草の珍しさよりもハーモニーだ。それに、バイオで改良された水草もいくつかでてきているし、奥地にいけばまだ珍しい水草もあるのだろうが、レイアウトに使うとなると珍しい種類は使いにくい。ポピュラーな種類のほうが、優雅な形を持っているものが多く、美しいと思う。また原種は美しいものだったのに、養殖が盛んになってしまったことで、その個性が凡庸な美に堕してしまうことが残念だと言う。

 ディスプレイの試みとしては、写真とか詩と合わせてレイアウトを作るということもやった。詩のイメージをとらえて、テーマを持ったレイアウトを飾るというものだ。アマゾンとか、アフリカとかいうのではなく、もっと抽象的なイメージの世界を構築することもできる。
 店内にはいろいろな形の水槽を用意している。既製の水槽だと不満の部分もある。メーカーにも話をしているが、採算の面で生産のロットに合わないが、もっとメーカーが水草に適した器具を作ってくれることを望んでいる。

 ところが個人的には忙しくて自分で水槽を作っている暇がない。ほとんど手が水に濡れない。
 「以前のショップの時も200本くらいの水槽があったんですが、自分で作り、お客さんの所にいってセットもしました。ところが今はやろうと思っても、水草が足りないくらい。レイアウトするには、水槽の前に立ってニラメッコなんです。それで構想を成熟させて実際に植え込んでいくと、ちょっと気持ちが悪い部分がある。そこを少しずつ手直しして、水槽を完成させるには時間がかかります」
 展示してある水槽の中にも、これが並んで植えられているのはおかしいという水槽があるらしい。レイアウトには流れがないといけないし、何を表現しようとしたのかが明確でないといけないという尾崎さん。自然界では説明のつかないことはない。自然の状態では水の流れがあったり、土壌成分、光量によって水草の住み分けが必然的に決まる。そこには法則が働いている。だから人間が水草を植える場合には、どうして並べて植えようとするのかという理由付けがなくてないけないと言う。無意識に植えるだけではレイアウトにはならない。けれども作ってしまってからは水草が主体の世界なので、植物に合わせることが肝心だ。

 「何しろ人間より遥か昔から地球に存在しているんです。商品だと思ってはいけません。物にも心があるというくらいですから、当然生きている物の心がある。それを理解しようと向き合えば、何を生き物が望んでいるのかは分かるようになります。そうなればレイアウトもうまくいくようになりますよ」というのが何より基本のようだ。













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