Past Window 1



 

5、Long so long  ― いつまでもいつまでも
                             :レッドアイカラシンの漂う海域

    


レッドアイカラシン
ペンギン村販売用水槽
 

 


 都会のビルの最上階。灯の残った孤独な窓は気をつけなさい。エアコンが快適に室内をみたしていても、ふっとビルがうごめいたようなあやしい気配。心が傾いたその瞬間、窓の外をみてはいけない。

 都会の夜気には軽い酩酊がたきこめられて、窓の外には赤いシグナル。

 危険! ガラスに映る赤いシグナルの、そのメッセ−ジを目に
したら、それはデスクの上の缶ビールのせいとはいえない。あなたの心はとらわれて、その焦点ははるか上空の闇をつきぬける。

 
闇はえんえんと大地をおおって、尽きるところをしらない。濃い大気の流れを下にみて、ただ広がりというばかりの無限。 

――ここはサバンナ。アフリカの熱帯疎林。ハイエナが寝(やす)むその鼻先のニジェール川こそ、物の怪にも似た危険なやつばらのふるさとだ。

あの日、大地はしとど雨に打たれて、剽軽
(ひょうきん)なものも、人一倍渇きにさまようものも、たてがみふるわせるテリトリーの王者も、だれもが一様にむせかえるような雨の帷(とばり)をみつめていた。

 

 

 雨の叫びは生きものの目にはとらえきれない。一瞬だけ視野を掠めて、次にはもうかれらの足元に死ぬように跳ねて、そうして百万年の跡をただニジェール川に向かって流れていく。 

 だが、闇にひそむものには共通の赤い眼と、やってくるドラムの音にも似た同じ胸の鼓動がある。そう、思わずもどかし気にゆるめたネクタイの皺は、生まれて何着目かの背広ではかれる時間。どこかになりをひそめていた心の、今は息づきがきこえて、ニジェ−ル川の川底に小さな水の振動が伝わる時。

 地球の夜の皮がそっとむけていくような三日月形の薄明があるならば、その中にキラッと光る陽の片鱗をめがけて、かれらこそいっせいに川面をジャンプする。売りものは祖先からずっとうけつがれてきたその姿。ニジェール川の川底でたゆまず幼時を養った、それはやさしさ、生きもののいのちのまばゆさ。まじり気のないリアリズム。
 

 こうして時をえて、帰りおくれた闇にキリキリと矢を射こむような薄い青の彼方に、若いやつばらがそのもの黒い影となって飛んでいく。

 ――都会のビルの最上階。灯の残った孤独な窓は彼らの遊泳テリトリー。その赤い眼のシグナルに一瞬ででも触れあえば、その運んできたものは人間の起源のにおい。

かれらは現代の海賊。ひとの心を掠めとる。 

 

 



レッドアイカラシン

 

 


 

撮影 小林道信
文  尾崎 初
『アクアライフ』誌 1986年4月号
ペンギンビレッジ広告より 





 

4、キラキラ族の叛乱  水平線の果ての物語
    


ペンギン村販売用水槽 

 


スピラリスのお城の中では今日も舞踏会。人気の中心はぼくの金色のお姫様。華やかで賑やかで楽しくて、
でもなんといってもしちめんどくさく、きゅうくつだ。
                                                                           

お城のはずれ、テネルスの原。小高い丘は夕焼けにつつまれて、そこにオレのシルエット。斜めの帽子に
そろいの背広。ちょっと片手をポケットにつっこんで、駆け寄る君に気取ってみせた。

お城のはずれ、ここはいつかのテネルスの原。その野原いっぱいにひろがったダイヤモンドテトラ、
100
ひしめき
あう金の鎧に、出陣前の足踏みに…。さようならエリー。心の急くまま、ぼくは広い戦野を望んだ。
 

求める先は荒唐無稽の夢の戦場。漆黒の夜に星々までが遠慮している、そんな夜がぼくらの狙いだ。

サァ、行くぞ。なれ親んだスピラリスの森を捨てれば、もうクリプトの湿地を越える。あのミクロソリュウムの丘をかすめて、急げ、急げ、夕陽が沈む。ぼくらは稀れな光の戦士。このまま地の果て、水平線の果てまで行きついて、そうしてオリオンがはためくその前に、東の夜に光の速さで駆け昇る。
 
ぼくらは稀れな光の戦士。ダイヤモンドテトラの軍団だ。

 




 

 


ダイヤモンドテトラ

DATA
水槽/
60×45×36H
ろ過/E・2007
照明/蛍光管 20W×2 
肥料/イニシャル
換水/10日に一度  4分の1
水草/
Vスピラリス、Eテネルス、Aナナ、バルテリー バルテリー、Rロトンジフォリア、タイガーロータス、ミクロソリュウム、Cベケッティ・ウェンディ・ウィリシィ・ネビリィ、他
魚/
ダイヤモンドテトラ100、ゴールデンテトラ、エンペラーテトラ、オトシンクルス、他

 






 

撮影 小林道信
文  尾崎 初
『アクアライフ』誌 1986年2月号
ペンギンビレッジ広告より 








3、グッドラック・ヌーディセプス  ヌーディセプスの恋

    

                                                                           
    

日曜日の昼下がり、ここは白いダイニング。

道路を隔てた公園からは子供たちの遊ぶ声が

聞こえて、テーブルにはいつも食器が2組。

  「う〜ん……」
オレはひとつ伸びをして、寝ぐらと決めた流木のすき間から、明るいやつらのいる世界へと顔を出してみた。

すぐカージナルやラスボラがオレを避けて上昇を始める。


杉並区 渡部正志さん宅(結婚して11か月) 

 あっちの方では相変わらずエンゼル同士が我がもの顔だ。

 目立ちたがりのあいつらに、オレはもう用がない。                   
 ゆっくりと体を起こして、フッフッと衣装にハタキをかける。そう、オレはヌーディセプス。小さくたってシクリッド。
 しかもアフリカ生まれの美形と評判で、ひょっとしたらオレだけが、この外の世界と通じ合うことができるんだ。

 
 ここは白いダイニング。絵にかいたようなやさしい光。

 テーブルにはいつも食器が2組あって、オレは知っている。

 そこにあるのはかよいあうまなざし、さみしくない心。あたりまえのような空気に込められた貴重品……。

  
 おっと、向こうの水草の間からまたあの娘が見てる。

 フン、――オレはエラをふくらませ、これみよがしの方向転換、……と思ったら、うかつにもクリプトの葉裏の空気を

 はじいてしまった。




 

 


ヌーディセプス

DATA
水槽/90×45×45H
ろ過/E・2017
照明/蛍光管 30W×2 20W×1 (水中) 
肥料/イニシャル、フローラプライド
換水/2週間に一度  3分の1
その他/CO2、油膜取り
水草/スピラリス、Eテネルス、Aナナ、バルテリー

 バルテリー、Rロトンジフォリア、タイガーロータス、ミ クロソリュウム、クリプトコリネ、Aウルバーセウス
魚/ヌーディセプス、カージナルテトラ、グローライト、

ラスボラ、トランスルーセント、エンゼル、オトシンクルス、ペンシルフィッシュ、他

 






 

水槽 渡部正志
撮影 小林道信
文  尾崎 初
『アクアライフ』誌 1986年1月号
ペンギンビレッジ広告より 



 

 


 




2、博物館の薄暗がり

ペンギン村販売用水槽(180×60×60pH)

                                       
                       

ここは埋もれたチリの世界
堆積された時間に
光さえが黄色く曲がっている
薄暗がりを歩けばひとつの部屋
ドアのない入口に身をいれれば――。

     残敵はまだ……!
     隊列は乱れたまま
     戦闘のあとの高ぶりが
     目を血走らせ
     地べたをはいずる狂犬のように
     身をいきがらさずにおかない
     わけもなく、ただわけもなく
     男どものエクスタシー

     

     インディアンの娘よ
     今は隠れ、身をひそませて――?
     男どもは夢想し、企画し、実行し、
     そしてまともに殺しあう
     世界を我がものにした錯覚
     殺しあうほどに
     おれたちは虚しい

スペクタクルは過ぎ去った西部劇
歴史の一コマに
立ち会った証人のように
おれたちの心は遠くにまで澄みいって
にぎやかでもなく、孤独でもなく
苦くもなく、甘くもなく
悲しむこともなく、へつらうこともなく。







DATA
水槽/180×60×60H アクリル水槽
ろ過/オーバーフロー式
照明/蛍光ランプ 30W×8  12時間
肥料/イニシャルD、フローラ・カプセル
換水/週に一度  3分の1
底床/大磯砂
その他/PH 7.2  KH 3゜ CO2 10mg/L
水草/エキノドルス・グリセバキィ、ヘテランテラ、
        バコパ・モンニエリ、アポノゲトン・ウルバーセウス、      メロンソード・プラント、
         バリスネリア・スピラリス、マヤカ・バンデルリー
魚/ディスカス(コバルトブルー・ターコイズ、
      レッドロイヤルブルー、
      ワットレイ・ターコイズ、ブリリアント・ターコイズ、
      グリーンディスカス)、
      オトシンクルス、コリドラス、ビーシュリンプ

 

 




 

撮影 小林道信
文  尾崎 初
『アクアライフ』誌 1986年11月号
ペンギンビレッジ広告より 







 

1、A  Lonely  Traveler  ブラックアロワナの時間

    

練馬区 前川 力(つとむ)さん

                                                                            
                       

時ははやい。時ははやい。ゆっくりと時間をかけて大きくなるものよ。時はおまえの中でこそはやい。

坂道に転がりおちた鈍色(にびいろ)のビー玉は、意志をもった生き物のように早駆ける。ぼくの足は追いすがるのにあまりにつたなく、半ズボンの膝小僧は昨日の傷にまだ濡れいたんでいた。

かれは行ってしまった。幼いぼくの記憶のように、気づいたときには手の届かぬ宵闇の彼方へと失われてしまった。あれはぼくの水槽に突然出現したアロワナ。やってきたときと同じように、かれは突然なにかの手によってつれさられてしまった。

時ははやい。時ははやい。

あるときはマユの中でのポリプテルスの夏眠のように眠り、あるときは百本の脚をもった生き物のように、たかが
しれた距離を疾駆する。あるときは別れ道にさまよいでた老人のように鈍い目だけを光らせて、そしてあるときは……。
 
ゆっくりと時間をかけて大きくなるものよ。おまえの中でこそ時ははやく過ぎて、現代の半馬人の矢でさえそれを射止めきれない。ただ、凍てついた時間とともに宇宙を巡ってきたホウキ星が、あたたかい太陽の光に目をみひらくようにして、ある日突然、おまえはマクランダの林の上に大物の姿をあらわす。―― そう、動くともなく動く星が曙の空に尾を引く古い約束の時、かつての失われた日々とぜいたくな時間の記憶が目のあたりによみがえる。それは走り去る日々を閉じこめて、なお問いやめぬおまえの姿だ。

還ってきたきたアロワナ。
(水草とアロワナがいっしょに育って9か月)






 


ロタラ・マクランダ 

DATA
水槽/90×45×45H
ろ過/E・2015
照明/蛍光ランプ 15W×3 40W×1  12時間
肥料/イニシャル、フローラ・カプセル
換水/3〜4日に一度  3分の1
その他/CO2、油膜取り
水草/イエローカボンバ、ミクロソリュウム、E・テネルス、
         R・マクランダ、テンプルプラント、A・レインキー、
         ヒドロコチレ・レウコケファラ、AP・ナタンス、
         B・モンニエリ、他
魚/ブラック・アロワナ 50p、アルジイーター、
       フライング・フォックス

 






 

水槽 前川 力
撮影 小林道信
文  尾崎 初
『アクアライフ』誌 1986年3月号
ペンギンビレッジ広告より 





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